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社外取締役座談会
三位一体のガバナンス体制への変革
グローバルスペシャリティファーマへの大きな一歩を共に
社外取締役が主体的に関与したサクセッションプラン
野村 2023年1月から約1年をかけて行った社長後継者の選考は、役員人事案検討会議で選考方法やスケジュールについて議論しながら、社外取締役が中心となって進めました。
また、オフィシャルな会議や候補者との面談以外に、我々社外取締役3名だけで意見交換することもありました。このような進め方は、経営陣と社外取締役の間に確固たる信頼関係がなければできないことです。今回はこの信頼関係のもとに独立性の高いサクセッションプランの運営ができたと考えています。
奥野 候補者との面談後、我々3名の意見を取りまとめる段階では、独立性や客観性を担保するため、議長の野村さんに対して、個別に選定意見を提出するというワンステップもありましたね。経営トップは自分の在任期間だけでなく、長期的な視点を持つことが必要です。私は面談の際、どれほどのスパンでマネジメントを考えているのかという視点で発言を聞いていましたが、すべての候補者が、次世代やその先を見据えて経営を考えていました。
長榮 私が候補者との面談で重視したのはヒューマンスキル(対人関係能力)です。いわゆるテクニカルスキル(業務遂行能力)やコンセプチュアルスキル(概念化能力)は代用が利きますが、ヒューマンスキルはそれができません。ですから、私はまず部下の言うことによく耳を傾けているかということや、誠実さがあるかということを重視しました。会社の不祥事は風通しの悪さに起因していることが多く、社長の人間性が会社の風土に表れてきますので、ヒューマンスキルは経営トップに欠かせない能力と考えています。
野村 3人それぞれの立場や考え方で検討したのですが、概ね評価は一致しており同じ結論に至っていましたので、自信を持って後継者指名を行う役員人事案検討会議に臨むことができました。私は本年(2024年)の6月で、当社の社外取締役を務めて6年となりますが、相良さんをはじめとした取締役の皆さんの人柄は、取締役会での議論等を通じてよく存じ上げています。今回のサクセッションプランの運営は、経営陣と社外取締役が、お互いに議論に真摯に臨んできたからこそ実現できたものだと思っています。
奥野 今回の人事もそうですが、日ごろから当社の取締役会は、私たちのさまざまな質問や要望に対して、常に前向きに対応をしており、今すぐに取り組めないことであっても、今後の対応についてしっかりと話し合いをしています。
野村 滝野さんを社長後継者に選んだ大きなポイントは、人間性もさることながら、現在小野薬品が長期ビジョンとして掲げている「グローバルスペシャリティファーマ」の実現を目指すうえで、グループ全体を牽引していく最適な人財であるということです。海外での勤務経験が豊富で、グローバルなビジネス感覚をお持ちです。また、製薬企業の生命線ともいえるパイプラインの拡充に取り組んできたキャリアは、今後の当社の経営において大変重要です。リーダーシップと旺盛なチャレンジ精神という社長に望まれる資質も持ち合わせておられ、こうした様々な要素を踏まえ、次の社長として適任との判断に至りました。
奥野 一方で、滝野さんは非常にエモーショナルな方でもあります。私は以前、アメリカでは新薬の薬価が非常に高額化していて、命を救うために本来使われるべき薬が患者さんに届いていないことなど、製薬企業の抱える矛盾についてお話しをしたことがあります。そのとき滝野さんは、病気で入院している子どもさんと直接対話した経験に触れ、製薬企業は患者さんのために尽くすという大前提があり、患者さんやそのご家族のためにも、自分たちが頑張らないといけないと熱く語っていたのがとても印象的でした。
長榮 情がある人でなければ、部下はついていきません。滝野さんの決め手となったのは、明るい人柄と部下の声によく耳を傾ける誠実さです。人の話をよく聞くことは、会社の風通しのよさにもつながります。当社をグローバル企業へと変革し、リーダーとして牽引していくためにも、まずは知性を磨いてほしい。1つしかない答えをいかに早く求められるかという能力は「知能」であり、AIにでも任せられます。私は、「知性」とは答えがなかったり複数あったりする状況で、いかに最適解を導き出せるかという能力であり、経営において、多様な人財の個性や能力を見定めて、その力を上手く使っていくために欠かせないものと考えています。
奥野 私が小野薬品に望むことは、「チェンジ」に挑戦するということです。小野薬品は長い歴史と伝統を持つ会社ですが、大きく飛躍しようとしている今、その部分が足かせにならないよう、大胆に変化に挑んでいくことが欠かせないと考えています。
野村 滝野さんは、当社のミッションステートメントの「めざす姿」に掲げる「熱き挑戦者」を彷彿とさせますが、今後はご自身のような熱い人財を増やしていくことが、社長としての大きな使命だと思います。今回、代表取締役3名の体制になりましたが、海外戦略の推進に向け、経営基盤が盤石になったと思います。
長榮 当社はこれまで、代表取締役は社長1名でした。今回、滝野社長、辻󠄀中副社長の就任で代表取締役が3名になりましたが、これは、各々が役割を分担することで、経営上の課題を即断即決できる体制にしていこうという目的があったからです。妥当な考えであり、理にかなった変革であると思います。
奥野 そのためには、相良会長にはこれまでのやり方にこだわることなく、新社長をサポートしつつバトンタッチをお願いしたいと思います。また、チェンジをより促せるような運営を3人体制で推進していけるよう、我々社外取締役も努めていきたいと思います。
高いエンゲージメントを基礎にした積極的な能力開発と人財登用に期待
奥野 私は、社員においても、チェンジができる人、チェンジを促すような働き方ができる人が求められていると思います。小野薬品には、会社のことを本当に好きな社員が多くいます。だからこそ「会社が好きだから変えたくない」に陥らず、「会社が好きだからこそ変えていく」と考える人財がもっと必要です。それは女性活躍も同じで、当社には非常に優秀な女性が多く、女性の管理職育成も進んでいますが、その結果がまだ数値に表れていません。加えて、人財登用の障壁となっている昇進ルールなどがあれば、その仕組みを改め、意欲と能力ある人財を積極的に登用し、チェンジの勢いを増していくべきだと思います。
野村 当社は今、各成長戦略を推進するために必要な「専門人財」と部門横断的に経営基盤を支える「横断人財」という分類で人財を育成していますが、複数の横断分野を強みとする人財を増やすことが必要です。多くの人財が強みを複数持つことで、能力の高い人の集団になってほしいと思います。日本企業はこれまで、チームワークの高さを武器に世界と渡り合ってきましたが、優秀な人財のチームワークであれば、より大きな力を発揮できます。当社は従業員エンゲージメントが高く、自分自身を伸ばすことに意欲的な人が多いので、そういう部分を人財育成にも活かしていけるはずです。
長榮 ある研究によれば、社員の80%は「自分がやりたい仕事しかしない人」と「指示されたことしかしない人」が占めており、自分の考えをしっかり持ち、さまざまな問題に対して主体的・自律的に対応できる人は全体の20%しかいないそうです。その20%の数字をどんどん高めていけば、会社の力も比例して上がっていくはずです。上司の指示に従うだけでなく、必要な時にはしっかりと意見できるようにならなくてはいけません。これは、会社が隠蔽体質にならないためにも重要なことです。
マネジメントと風土改革の両面でダイバーシティ・グローバル化を
長榮 企業のグローバル化には、想像以上に時間がかかるものです。ある国のスタンダードが、グローバルスタンダードではないということは珍しくありません。グローバルでビジネスを行うには、その国の特性を受容しすぎても、反発しすぎてもいけないというのが、かつて私が海外駐在した際に心掛けていたことです。特にアメリカは州ごとに法律が違うので、さらに複雑です。欧米自販を目指す当社では、法務リスクの高さが想定されますので、注意を払う必要があります。
野村 当社は、海外と国内の人事異動や交流を密にしていくことが今後の課題です。それに加えて、日本の本社のガバナンス、コンプライアンス体制をグローバルスタンダードに変革しつつ、長榮さんの先ほどの指摘のように、日本の感覚では分からない海外のコンプライアンスに対応するべく、各国の法規制や商慣行を調査することも必要でしょう。当社では、2023年10月にグローバル人事制度が導入されました。コンピテンシー(行動特性)を評価項目に取り入れており、一体感を持ったグローバル化が実現できるのではないかと考えています。
奥野 私は、グローバル化の課題はダイバーシティの課題でもあると思っています。ビジネスのグローバル化では、国・地域によって異なる法律を遵守することが求められます。さらに、グローバルで活動を続けるには、法律以外にも相手方の文化やビジネスに対する姿勢を理解し、尊重することが重要です。グローバル化に必要となる、異なる文化や考え方を尊重する姿勢は、社内におけるダイバーシティ課題への取り組みにも通じるところがあります。グローバル化とダイバーシティの推進には、社内風土改革の地道な活動と、トップマネジメントによる強い取り組みの双方を進めていくことが必要です。ガバナンス面においても、今後外国籍の取締役の登用など、グローバル化を意識した対応を検討する必要があるでしょう。
野村 これからのリーダーに必要なのは、自らが率先垂範し、グローバル展開を積極的に進めていくという気概です。
中期経営計画の最終年度である2031年度に向けて、非常にチャレンジングな時代を迎えているという意識を社員が持ち、前向きな取り組みを続けていけば、大きな成果が生まれると思います。
長い伝統を基盤にした“小野らしさ”で世界と伍するあり方を
奥野 私が本日、一貫してお話ししてきた「チェンジ」、それは「脱皮」とも言い換えられます。当社は今、本当に大きな岐路に立っています。そうした状況でのチェンジとは、すべてを捨てて変わるのではなく、これまでの長い伝統も含めて、今あるものを使って変わるということです。これまでと同じ成長を続けるという意識を脱ぎ捨て、ここで大きくジャンプすることを当社の全員が頭の中に描きながら、次の一歩を踏み出さなくてはなりません。
長榮 私が在籍していた会社はメーカーだったので、グローバル化には「製・販・技」、つまり製品の製造と販売ルートの確保、技術開発を一体化で進めることが必要だと言われていました。この中で最も困難なのは販売ルートの確保です。
海外で自社の販売ルートを作ろうとすると、10年から20年はかかります。ですから、販売ルートを獲得するためにM&Aや提携を行っていました。小野薬品でも、今後グローバル化を進めるにあたり、積極的なM&Aや提携は避けて通れないでしょう。また、近年、マルチステークホルダーの考えが重視されていますが、私は従業員を非常に重要なステークホルダーと考えています。会社は従業員に対して、待遇を含め、何をすべきかを考えていく必要があると思います。
野村 当社の事業はオプジーボに見られるように、長らく続けてきたオープンイノベーションを活用とした革新的な医薬品の開発など、他の製薬企業にはない独自の強みを持っています。海外でもその強みを発揮していくことは、十分に可能だと考えています。
当社の企業理念である「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」に加え、「人々の健康への貢献」がサステナブル経営の目標に含まれています。病気を克服しながら健康寿命を延伸していくという、人類にとって必要な事業に立脚しながら、研究開発への取り組みでは特色を大事にしています。
グローバル企業となるには必ずしも海外企業と同じ土俵に乗る必要はなく、日本企業の良さと強みを生かしていくのが、遠回りであるようで、実は一番の近道かもしれません。
奥野 私も独自発想の「グローバルスペシャリティファーマ」の姿を模索することは可能であると考えます。つまり、小野薬品が今後グローバル企業として実現したい姿を、社内でさらに議論する余地があるということです。どのような製薬企業を目指すのか、もっと具体的に煮詰めて考えていく必要があります。
長榮 私は常々、規模が大きいばかりが良い会社ではないと思っています。グローバルでニッチな分野をターゲットにしてトップを目指すというやり方もよいと考えています。それには方向性をしっかりと定めて進んでいくことが重要です。
小野薬品ならではの特色を出していくことが、海外での知名度の向上にもつながります。
野村 強みの話ともつながりますが、複数の特色を持っていくことが必要になると思います。これまで製薬企業は患者さんの多い疾患に対して治療薬を供給することに重点を置いてきたと思いますが、小野薬品は「医療アクセスの改善」として、希少疾患や小児疾患に革新的な医薬品を届けることを目標の一つに掲げています。我々も世界中の患者さんに対して、さらなる貢献を目指すという挑戦を後押ししていきたいと考えています。