小野薬品工業株式会社

統合報告書 2026
 オンライン版

  • TOP
  • 財務戦略

財務戦略

国内から世界へ
財務の力で、次の成長を
実現する

執行役員/財務経理統括部長 兼 経理部長
中野 春美

財務戦略を通じて、
成長への挑戦を加速

小野薬品は今、国内市場を中心とした事業モデルから、グローバル市場を基盤とする成長モデルへと大きく転換しています。財務経理を統括する立場として、最も重要だと考えているのは、CEOとCOOが描く成長戦略を、財務面から確実に実現できる環境を整えることです。

財務経理部門の役割は、資金を管理し、事業の結果を集計することだけではありません。どこに、どのような時間軸で資金を配分すれば成長につながるのか、投資にどのようなリスクがあり、どのような財務スキームが最適なのかを考え、事業部門と同じ目標を共有しながら選択肢を提示する。そうした経営意思決定に参画するビジネスパートナーでなければならないと考えています。

私はこれまで、グローバルに事業を展開し、M&Aを積極的に行う製造業で財務に携わってきました。製薬企業では、長い時間と不確実性を伴う研究開発への継続投資が将来の成長に必要不可欠です。グローバル化に伴い、各国の税制・規制への対応に加え、為替変動や地政学的リスクなど、考慮すべき課題もより複雑になります。これまでに培ってきたグローバルな資金管理やM&Aの経験を活かし、戦略立案・実行とリスク管理を通じて意思決定の質を高めます。研究開発を重視し、患者さんへ新たな治療の選択肢を届ける当社の挑戦を財務面から支えることが、私たちの使命です。財務経理部門の一人ひとりが事業への理解を深め、経営や事業部門と同じゴールへ向かう組織をつくっていきます。

グローバルな成長に応える
財務戦略への転換

事業モデルの転換は、収益構造にも表れ始めています。2025年度の売上収益は5,158億円となり、その内訳は製品売上3,426億円、ロイヤルティ収入1,732億円でした。デサイフェラ社のグループ化により欧米での自社販売基盤を獲得したことで、自社販売による収益を拡大し、グローバルで収益基盤を強化する道筋が見えつつあります。

当社はこれまで、国内事業などから創出したキャッシュを基に、財務健全性を重視した運営を続けてきました。しかし、欧米で研究開発から販売までを自ら担い、複数の製品をグローバルに展開するには、財務のあり方も変える必要があります。デサイフェラ社の買収では外部からの借り入れも活用しました。これは、当社が単にキャッシュを蓄積する段階から、将来のキャッシュ・フロー創出力を見据えて資金を調達し、成長に向けた投資を加速する段階に移ったことを意味します。財務健全性を維持し、返済への確かな見通しを持つことは大前提ですが、手元資金だけを基準に投資の可否を判断していては、大きな成長機会を逃す可能性があります。必要な局面では負債も適切に活用し、企業価値向上につながる投資へ踏み出せる財務基盤を構築していきます。

特に重要なのが、グローバルでの研究開発を支える資金調達力です。当社では現在、複数のパイプラインが進展しており、今後、有望な開発品をグローバルで展開する段階に入れば、多額の投資資金が必要となる局面も見込まれます。そのときに、資金の制約によって開発機会を逃すことがあってはなりません。手元流動性を適切に確保するとともに、金融機関からの借り入れに加え、社債なども選択肢に含め幅広い資金調達手段を検討し、必要なときに機動的に資金を調達できる体制を平時から整えていきます。

グループ全体の資金を国境を越えて効率的に管理・活用するためにグローバル・キャッシュ・マネジメントの高度化も必要です。今後、海外事業が拡大すれば、日本から一方的に資金を供給するのではなく、海外で創出したキャッシュを海外の研究開発や事業成長に循環させることが重要になります。各地域の資金需要、税制、カントリーリスクなどを踏まえながら、グループ全体で資金を最適に配置し、効率的に活用する仕組みを構築し、国内を中心に培ってきた財務の強さを、グローバルな成長を支える財務力へと進化させていきます。

財務健全性指標
年度 2021 2022 2023 2024 2025
総資産(億円) 7,392 8,824 9,137 10,640 11,065
親会社の所有者に帰属する持分(億円) 6,559 7,419 7,930 7,825 8,507
親会社所有者帰属持分比率比率(%) 88.7 84.1 86.8 73.5 76.9
D/Eレシオ(倍) 0.013 0.012 0.011 0.187 0.142
ROA(%) 14.1 17.7 18.2 6.0 8.5
ROE(%) 12.5 16.1 16.7 6.4 8.5

時間軸の異なる投資を組み合わせ、
持続的成長を支える

財務戦略において最も優先すべき投資は研究開発です。製薬企業の企業価値の源泉は、患者さんへ新たな治療の選択肢を届けるパイプラインにあり、研究開発投資は将来の製品と収益を生み出すための成長投資です。当社は研究開発費率について、売上収益の20~25%を中長期的な水準とし、2025年度から2026年度までの2年間で約3,000億円を投じる計画です。2025年度は、高水準の研究開発投資が続いたことなどにより、研究開発費率は28.5%、営業利益率は17.9%となりました。足元では成長投資が先行する局面にありますが、必要な研究開発投資を着実に継続し、パイプラインの製品化とグローバル事業の拡大を利益成長につなげることで、売上収益の年平均成長率1桁台後半、研究開発費率20~25%、売上収益営業利益率25%以上という中長期目標を目指します。

一方で、研究開発には長い時間がかかり、常に不確実性を伴います。そのため、自社創薬による長期的な成長を追求するだけでなく、導入品やM&A、既存製品の価値最大化などを通じて、より短中期で売上や利益を創出する取り組みも組み合わせる必要があります。デサイフェラ社のキンロックやロンビムザの売上が拡大していることは、その具体的な成果の一つです。短中期の収益基盤を強化しながら、そこで得た資金を自社創薬へ投じ、次の成長につなげていきます。財務経理部門は、将来どの時期にどのような製品やパイプラインが必要になるかを事業部門と連携し、自社創薬、導入、M&Aのいずれで獲得するか、それぞれにどれだけの資金が必要かを検討しています。成長シナリオと資金の出入りを一体で設計することが、財務部門の役割です。

もちろん、成長投資を重視することは、無制限に資金を投じることではありません。投資できる資金は有限であり、投資回収への規律が必要です。M&Aや導入案件などの判断に際しては、正味現在価値(NPV)や投資収益率(IRR)などを用い、資本コストを上回る資本収益性が確保されていることを慎重に検証しています。投資実行後も、追加投資の必要性や事業環境の変化を確認し、当初想定した成果を検証するとともに、次の意思決定に向けた投資判断の仕組みの高度化についても、継続的に取り組んでいます。

投資アロケーション
投資アロケーションフロー図

また、研究開発力、人財、デジタル基盤、社会からの信頼などの非財務項目も持続的な成長に不可欠です。人財への投資が社員のエンゲージメントを高め、研究開発力や事業成長にどうつながるのか。財務と非財務のつながりを可能な限り可視化し、投資と成果の関係をより明確に示していきたいと考えています。

さらに、成長投資、財務健全性、株主還元のバランスも重要です。「累進配当方針」のもと、持続的な利益成長を通じて還元の充実を目指します。短期的な株価を追うのではなく、研究開発の成果を製品化し、売上・利益の成長と資本効率の向上を株主還元につなげることで、持続的な株主総利回り(TSR)の向上を目指します。製薬事業は不確実性が高く、研究開発の成果が収益として表れるまでには時間がかかります。だからこそ、株主・投資家の皆さまには、足元の数値だけでなく、当社がどのような成長ストーリーを描き、何に投資し、どこまで進んでいるのかを分かりやすくお伝えする必要があります。パイプラインの進捗や投資の背景、想定する時間軸をできる限り丁寧に示し、長期的な視点で当社の挑戦を支えていただけるよう、対話を深めていきます。

企業価値向上に向けた財務・非財務の価値創造
企業価値向上に向けた財務・非財務の価値創造フロー図

ROE向上に向けた資本効率の改善

資本効率については、経営における共通の指標としてROEを重視しています。現在の水準に満足することなく、研究開発やグローバル事業への投資を利益成長へ結びつけ、資本コストを安定的に上回るROEを実現していきます。

成長戦略(2022-2026年度)の目標
  2021年度実績 2022年度実績 2023年度実績 2024年度実績 2025年度実績 2026年度目標
売上収益(億円) 3,614 4,472 5,027 4,869 5,158 売上収益年平均成長率
1桁台後半
営業利益率(対売上収益)(%) 28.6 31.7 31.8 12.3 17.9 25%以上を維持
研究開発費(億円) 759 953 1,122 1,499 1,470
研究開発費率(対売上収益)(%) 21.0 21.3 22.3 30.8 28.5 20~25%
※2021年度比

資本効率の向上に向け、政策保有株式についても継続的に見直しています。革新的な医薬品の創製にはパートナー企業との長期的な協力関係が不可欠であることから、事業上の関係やシナジー創出などを踏まえ、中長期的な企業価値向上に必要と判断した株式を保有しています。一方、年1回、取締役会において個別銘柄ごとに保有目的や便益、リスクなどを検証し、縮減すると判断した株式については、投資先企業との対話を重ねながら縮減を進めています。

政策保有株式の縮減状況
政策保有株式の縮減状況(2018年3月末〜2026年3月末)グラフ

小野薬品は今、複数の開発品が前進し、グローバルで新たな成長を実現する局面を迎えています。この成長を財務面から確実に支えられるよう、財務基盤と調達力を整える。そして、規律を持って投資し、その成果を利益成長と企業価値向上へつなげる。それが、財務経理部門の責務だと考えています。

TSR(Total Shareholder Return)の推移
TSR(Total Shareholder Return)の推移(小野薬品工業とTOPIX:2016年3月〜2026年3月)グラフ
株価パフォーマンス(Total Shareholder Return)
  1年 3年 5年 10年
累積 年率 累積 年率 累積 年率
小野薬品工業 +61.7% -0.5% -0.2% -0.5% -0.1% -34.9% -4.2%
TOPIX +34.6% +87.4% +23.3% +102.2% +15.1% +228.2% +12.6%
  • TSR(Total Shareholder Return):株主総利回り。キャピタルゲインと配当を合わせた総合投資収益率
  • TSRの計算は、小野薬品工業は累積配当額と株価変動により、TOPIXは配当込の株価指数により算出(Bloombergデータなどにより当社作成)
  • グラフの値は、2016年3月末日の終値データを100としてTSRによる時価を指数化したもの(保有期間は2026年3月末まで)
  • リターンの数値は投資収益率を測定する際に一般的に使用される初期投資額の増減率で表記
株主還元の推移
株主還元[1株当たり配当金、当期利益(親会社の所有者帰属分)]の推移(2021年〜2026年予想)グラフ
年度 2021 2022 2023 2024 2025
配当総額(億円) 277 342 379 376 379
配当性向(%) 34.5 30.3 30.0 75.1 53.9
自己株式の取得(億円) 300 500
総還元性向(%) 71.6 30.3 69.1 75.1 53.9