小野薬品工業株式会社

統合報告書 2026
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COOメッセージ

未知の領域への挑戦を重ね、
新たな治療の選択肢を
世界の患者さんへ届け続ける企業へ

代表取締役COO
滝野 十一

創薬力を磨くことは、挑戦を続けられる
仕組みをつくること。

研究と開発の連携を一層強化し、質の高い挑戦を継続的に生み出せる研究開発体制へ進化させます。

2025年度は、私たちの研究開発にとって大きな転換点となりました。がん領域と神経領域において、自社創薬の取り組みから、臨床での有効性シグナルを確認するProof of Concept(POC)を達成したプロジェクトが久しぶりに出てきたことで、これまで進めてきた研究開発改革の成果が具体的な形となって現れはじめたからです。社内では次の成長への確かな手応えが生まれてきたことで自信も活力も満ちはじめ、外部からも「ポスト・オプジーボ」の成長が見えはじめたとの評価をいただくようになりました。

しかし、私が本当に重要だと考えているのは、個別プロジェクトの成功そのもの以上に、その成果を継続的に創出できる研究開発の仕組みや組織能力へと進化させることです。

新薬開発は本質的に不確実性の高い挑戦です。当社は既存治療をわずかに改良した新薬創製にとどまるのではなく、病気に苦しむ患者さんの未充足な医療ニーズに応えられるような新たな治療選択肢を生み出すことを目指しています。だからこそ、ブレークスルーへの挑戦を続けながらも、その成功確率を高める仕組みをいかに構築するかが重要になります。かつては、革新的な新薬候補の有効性を確認できるのは臨床開発の中盤以降でした。しかし現在は、バイオマーカーを含めた測定技術、トランスレーショナルリサーチの進歩により、薬剤がヒトの体内で作用してほしい標的組織や分子に適切に到達しているか、期待した作用機序がヒトでも発現しているかを、より早い段階で評価できるようになりはじめています。私たちはこれらの技術やノウハウを積極的に取り込み、研究と開発が創薬初期から一体となって仮説検証を行う体制への転換を進めています。その結果、有望なプロジェクトには大胆に経営資源を投入する一方で、可能性が見込みにくいプロジェクトについては、科学的根拠に基づいて早期に見極め、より大きな価値創出が期待できる領域へ資源を再配分していきます。こうしたメリハリのある資源配分によって開発パイプライン全体の価値を高めながら、難易度の高いプロジェクトにも果敢に挑戦していきます。研究と開発が互いの視点とアイデアを持ち寄り、技術進歩を適切に取り込みながら仮説検証の精度を高めていくことで、次の成功につながる確率を着実に高めることはできると考えています。

私は、創薬力とは、一つひとつの成功や失敗の背景にある考え方やプロセスを「組織知」として蓄積し、次の挑戦へとつなげていく力だと考えています。成果を個別のもの、一過性のものにとどめるのではなく、継続的な価値創造へ結びつける研究開発組織をつくること。その積み重ねこそが、小野薬品がイノベーションを生み出し続け、世界の患者さんへ新たな治療の選択肢を届け続ける源泉になると確信しています。

創薬の価値は、
患者さんに届けて初めて完成する。

デサイフェラ社との経営統合によって獲得したグローバル事業基盤を活用し、生み出した新薬を世界の患者さんへ自ら届け、次の価値創造へとつなげます。

小野薬品の強みは、自社創薬とオープンイノベーションの双方の強みを生かしながら、新しい価値を創出してきたことにあると私は考えています。これまでも当社は、自社で培った創薬のアイデアやノウハウを核としながら、世界中のアカデミアやバイオベンチャー、製薬企業との連携を積極的に推進してきました。世界中の優れたサイエンスを存分に取り込みながら、小野薬品ならではの価値へと高めていく姿勢は今後も変わりません。

そして現在、創薬で生み出した価値を世界の患者さんへ届けるための基盤が整いつつあります。デサイフェラ社との経営統合です。

この統合により、当社はキンロックやロンビムザといった製品群に加え、欧米市場における後期臨床開発から承認取得、上市、市場浸透までを一貫して推進できる体制を獲得しました。今後は、この体制をフル活用し、キンロックやロンビムザ、米国で承認申請中のベレキシブルに加え、自社創薬のパイプラインや新規の導入品についても、グローバルでの開発・事業展開を通じて、その価値を最大限に引き出していきます。また、一つひとつの製品を通じて得られた知見や開発経験、販売力、医療機関との関係性を次の研究開発や事業機会へ循環することで、持続的な競争力の強化につなげていきます。

こうした取り組みを積み重ね、新たなイノベーションを生み出し続けることが、グローバルスペシャリティファーマとして世界中の患者さんにより多くの希望を届けることにつながると私は信じています。

小野薬品の創薬

世界中のアカデミア等との協業による、
新たな創薬シーズの探索
最新の技術を持つバイオテック等との協業に
よる、最適モダリティでの創薬

重点領域

小野薬品の力は、
知識と経験の循環から生まれる。

部門や地域、専門領域を越えて知識と経験を循環させ、それぞれの専門性を掛け合わせることで、「一つの小野薬品」として患者さんへの価値を高め続けます。

私は、「バリューチェーン」という言葉を、実際に体現していくのはなかなか容易ではないと感じています。製薬企業は機能ごとに高度な専門性を有する組織をもつがゆえに、それぞれの組織がサイロ化しやすい側面があります。しかし、患者さんから見れば、小野薬品は一つの会社です。

研究、開発、生産、営業、市販後活動、それぞれを支えるコーポレート機能は、単なる直線的なプロセスではありません。それぞれが互いに影響し合い、知見を循環させながら価値を高めていくことが求められます。例えば、市販後に得られた医療現場の知見は新たな研究テーマの着想につながります。営業やメディカルアフェアーズが医療従事者や患者さんから受け取った声は、開発戦略や臨床試験の設計にも生かされます。また、生産現場で培われた品質に関する知見は、製剤技術や製造プロセスの進化を支えます。企業価値は、各部門が各々の成果を上げるだけでなく、部門や地域、専門領域を越えて知識や経験がつながり、互いに高め合うことで初めて大きな価値へと結実します。だからこそ私は、組織のサイロ化が最も避けるべき課題ではないかと考えています。組織が大きくなるほど、それぞれの機能が細分化され専門性が高まります。その一方で、全体最適の視点が薄れ、大きな目的を見失って自部門の成果や最適化だけを追い求める傾向が生まれます。しかし、私たちが社会から求められているのは、「一つの小野薬品」として最良の価値を届けることです。

そのために欠かせないのが、組織ごとに互いの仕事を理解し、尊重し合う文化です。研究者は開発や生産、営業の視点を知り、営業は研究者の挑戦や思いを理解する。こうした「トラスト・チェーン」や「リスペクト・チェーン」が基盤となって、互いが期待し、互いに応える。この関係性こそが「真のバリューチェーン」となり、新たな価値創造につながると考えています。

未来を切り拓くのは、一人ひとりの挑戦。

一人ひとりが「熱き挑戦者」として、多様な仲間やステークホルダーの皆さまと力を合わせながら、未来の医療を切り拓きます。

患者さんに新たな治療の選択肢を届けるためには、未知の領域に挑み続ける人財が重要です。そのために、社員一人ひとりが、自分の仕事が患者さんへの価値につながっていると実感できる会社でありたいと考えています。その実感が主体性と当事者意識を育み、一人ひとりの力を会社全体の成果へと結びつける原動力になるからです。

その原点となる当社の企業理念「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」は、すべての社員が患者さんを中心に考え、それぞれの挑戦を一つにつないでいくための道標です。また、当社のミッションステートメントである「熱き挑戦者たちであれ」は、失敗を恐れず挑戦してほしいという思いだけではありません。一人ひとりが自ら考え、自ら行動し、多様な仲間と協働しながら新しい価値を創造してほしいという願いが込められています。真のブレークスルーは個人の力だけでは生まれません。異なる専門性や価値観を持つ仲間との対話と協働によってこそ実現されます。その積み重ねこそが、小野薬品の競争力であり、企業文化そのものだと考えています。

また、グローバル企業として成長するためには、多様な価値観や文化を持つ人財が互いに学び合い、挑戦し続ける組織であることが欠かせません。デサイフェラ社との協働をはじめ、海外拠点との人財交流や共同プロジェクトを通じて、世界を舞台に活躍できる人財の育成を進めていきます。

デジタル・ITによる企業変革。

デジタル・ITを活用し、研究開発・事業運営・組織運営の変革を加速します。

AIやデジタル技術、ロボティクス、計算処理能力の飛躍的な進展は、製薬企業の競争力を左右する重要な要素になっています。これらの技術は、創薬から開発、事業運営に至るさまざまな場面で、意思決定の質とスピードを格段に高めています。

当社は、こうした技術の進展を成長の機会と捉え、自社だけで完結させようとするのではなく、外部の優れた技術や知見も積極的に取り込みながら、デジタル・ITの活用を進めています。例えば、AIは標的探索、シーズ探索、化合物設計、抗体設計など、創薬プロセスの各段階で活用が広がっています。これまで見えにくかった生体情報を捉え、仮説の精度を高めることで、研究開発の生産性向上につなげていきます。

また、高度な計算基盤やデータ活用の重要性も高まっています。当社は、外部パートナーとの連携も活用しながら、解析力や処理能力を強化し、研究開発に必要な技術基盤の高度化に取り組んでいます。こうした取り組みを通じて、創薬の各プロセスを飛躍的に進化させるとともに、より迅速で質の高い意思決定を実現していきます。

デジタル・ITの活用は、生産、営業、コーポレート機能を含む事業運営全体においても、データに基づく業務プロセスの高度化や意思決定の迅速化を進めています。蓄積された情報を部門横断で活用し、経営・事業・研究開発を支える基盤としてデジタル・ITを進化させていきます。

今後も、デジタル・ITを企業変革のアクセラレーターとして、研究開発の生産性向上、事業運営の高度化、組織運営の効率化を推進します。これにより、創出した価値をより速く、より確実に患者さんへ届ける体制を強化していきます。

挑戦を重ね、社会から信頼される企業へ。

長期的な視点で価値を育て、持続的な成長につなげていきます。

研究開発、人財、そしてグローバル事業基盤への投資は、いずれも将来の価値創造を支える重要な経営資本です。私は、これらの資本を有機的に結びつけながら、持続的な成長と企業価値向上を実現していきます。

そして、小野薬品を「世界の患者さんに革新的な治療の選択肢を届け続けるグローバルスペシャリティファーマ」へと進化させることで、社会から信頼され、挑戦する仲間やパートナーから選ばれ続ける企業でありたいと考えています。

株主・投資家の皆さまをはじめ、すべてのステークホルダーの皆さまとともに、未来の医療を切り拓いていく。その強い意志を胸に、小野薬品はこれからも「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」という企業理念の実現に向けて歩み続けます。

研究開発も、人財も、グローバル事業も、長い時間をかけて価値を育てていく営みです。だからこそ、短期的な成果だけを追うのではなく、患者さんへの価値創造を軸に企業価値を高め、社会から信頼される会社へ成長していく。その歩みを、長期的な視点でご期待いただきたいと考えています。そして、「小野薬品とともに挑戦したい」と思っていただける、そんな企業であり続けることが、私たちの目指す姿です。