小野薬品工業株式会社

統合報告書 2026
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CEOメッセージ

300年の歩みを
次の成長への力に変え、
ステークホルダーの皆さまとともに
社会から信頼される小野薬品へ

代表取締役会長CEO
相良 暁

夢は大きく、歩みは堅実に。
より信頼される小野薬品へ進化する。

複数の新薬を切れ目なく生み出し、その価値をグローバルで最大化できる事業基盤を構築することで、創薬難易度の上昇やオプジーボの特許満了を乗り越えます。

いま小野薬品は、次の成長へ向けた大きな転換点に立っています。
製薬産業を取り巻く環境は、かつてないほど厳しさを増しています。創薬の標的探索が進展した結果、いま残されているのは、より難易度の高い領域です。加えて、日本では社会保障費が財政を圧迫し、医薬品の価値を薬価に十分に反映することが難しい状況にあります。世界の医薬品市場に占める日本の割合は、約30年前の20%から現在では4%程度まで縮小し、米国が約50%を占める状況となっています。日本を中心に事業を展開するだけでは、持続的な成長を実現しにくい時代になりました。

さらに当社にとって大きな課題となるのが、2028年以降、世界各地域で順次迎えるオプジーボの特許満了です。オプジーボは当社の成長に大きく貢献してきた製品であり、その影響を単一の製品で補うことは容易ではありません。創薬の難易度が高まるなか、複数の新薬を継続的に生み出し、世界の患者さんへ届ける力を備えることが、当社の将来を左右する最も重要な経営課題です。

こうした危機感のもと、当社は2024年にDeciphera Pharmaceuticals, Inc.(以下、デサイフェラ社)をグループに迎え、欧米市場へ自ら進出する道を選びました。従来は、自社で創製した医薬品を海外のパートナーに委ね、開発・販売していただくことが中心でした。デサイフェラ社のグループ化は、単なる製品の取得ではなく、私たち自身が研究開発から承認取得、供給、販売までを担い、医薬品の価値をグローバルで最大化する事業モデルへの転換を意味します。小野薬品がグローバルスペシャリティファーマへ進化するための、新たな出発点だと考えています。

デサイフェラ社との統合を、
世界で勝てる力へ。

両社の強みを融合し、グローバルで複数の開発品を展開できる体制へと業務の進め方を変革。開発の質と意思決定のスピードをメガファーマに勝てる水準まで高めます。

デサイフェラ社との統合は、現時点まで順調に進んでいます。同社が培ってきた欧米での事業経験や専門性を取り込むことで、欧米自販の歩みを大きく前進させることができました。また、両社には、「未充足の医療ニーズに向き合い、患者さんへより良い治療選択肢を届けたい」という共通の思いがあります。この価値観を共有できていることが、統合を円滑に進めるうえで大きな力になっています。研究者の交流も始まり、デサイフェラ社の研究拠点から新たな成果が生まれることも期待しています。事業を支える中核人財が大きく流出することなく、互いの強みを尊重しながら関係を構築できていることも、これまでの重要な成果です。今後は、この良好な関係を具体的な業務プロセスや成果へ結びつけていく段階に入ります。

ただし、私は現在の状況を統合の完成形だとは考えていません。デサイフェラ社はこれまで、少数の製品に経営資源を集中し、一つひとつを丁寧に育ててきました。今後は、そこに当社の複数の開発品を加え、多数のプロジェクトを欧米で同時並行に進めていく必要があります。これは、単に扱う製品が増えるということではありません。開発、薬事、供給、販売などの各機能が部門や地域の壁を越えて連携し、より複雑な事業を迅速に動かせる体制へ移行することを意味します。

両社が情報を共有し、ともに業務を進められるようになることは、統合の第一歩にすぎません。それぞれの経験と強みを融合し、開発の質と意思決定のスピードを、欧米のメガファーマと競い、勝てる水準まで引き上げることが、私の考える統合の目標です。当社では2030年前後に複数の開発品が重要な局面を迎える見通しです。その機会を確実に生かすため、今後5年程度で、両社の力をより大きな成果へ変えられるグローバル経営基盤を築いていきます。

既存製品の価値最大化も重要な取り組みです。オプジーボの皮下注製剤は、患者さんや医療従事者の負担軽減と治療の利便性向上に寄与するとともに、製品のライフサイクルマネジメントによる製品価値の維持・向上につながります。新薬の創出、外部からの導入、既存製品の価値最大化を組み合わせ、持続的な成長を確かなものにしていきます。

成長投資と株主還元を両立することが
経営の責任。

成長投資が先行する局面だからこそ、資本コストを意識し、投資案件を厳選するとともに、その意義と進捗を丁寧に説明していく必要があります。開発品を着実に製品化し、利益成長へつなげることで、ROEの回復と株主還元の充実を目指します。

新薬を生み出すために研究開発投資を継続することは、製薬企業として果たすべき責任です。同時に、株主の皆さまからお預かりした資本を有効に活用し、その成果を還元することも、上場企業としての重要な責任です。この2つをどのように両立させるかが、経営において重要なテーマであると考えています。

2026年から2031年頃までは、パイプラインを製品へと育て、グローバル事業基盤を強化するため、成長投資が先行する局面になると見込んでいます。だからこそ、投資案件を厳しく見極め、資本コストや資本効率を意識しながら、限られた経営資源を最も価値創出につながる領域へ配分していきます。現在8%前後のROEについては、収益力の強化と資本効率の改善を通じて持続的な向上を目指します。その実現に向けて、有望な開発品を確実に製品化し、利益成長につなげる必要があります。

創薬には長い時間がかかり、常に不確実性を伴います。短期的な利益を優先して研究開発投資を抑えれば、将来の成長機会を失います。一方で、将来への期待だけを語り、株主還元を後回しにすることもできません。私たちは、投資の必要性と期待される成果を見極めながら、患者さんへの価値提供、収益成長、株主還元を実現していきます。

株主・投資家の皆さまには、それぞれのお立場や投資方針に基づき、当社の経営を評価していただいています。その期待に誠実に向き合い、成長投資が必要となる背景や時間軸、投資によって患者さんや社会に届ける価値、そして将来の企業価値向上の道筋を、客観的な進捗とともに丁寧に説明していきます。

長期的な視点で当社の挑戦を支えてくださる株主層を広げることも、IR活動の重要な役割です。期待に応える実績を積み上げながら、株主・投資家の皆さまとの率直な対話を重ね、その先には、成長投資と株主還元の双方を一段高い水準で実現できる会社を目指します。臨床試験で着実な成果が表れ始めたいま、夢を具体的な企業価値へ変えていく段階に入ったと考えています。

社会への貢献は、
事業活動そのものの中に。

患者さんへ新たな治療の選択肢を届けることを起点に、環境や人権をはじめとする社会課題にも誠実に向き合い、事業活動を通じて社会的価値を創出します。

かつて当社には、本業に専念することが重要であり、業界活動や社会との関わりに必要以上に踏み込むべきではないという意識がありました。私自身も、事業によって得た収益を社会へ還元することが、企業の社会貢献だと捉えていた時期がありました。しかし、創業300年を迎え、オプジーボを世に送り出したことを契機に、企業が社会に果たすべき役割を改めて考えるようになりました。

当社の存在意義は、病気に苦しむ患者さんとそのご家族に、新たな治療の選択肢を届けることにあります。治るかもしれないという希望を届け、健康、その先の幸せにつなげていく。これこそが、私たちの事業活動を通じた、社会課題の解決であり、社会的価値の創出です。さらに、医薬品を通じて人々の生命や健康に関わる企業である以上、その責任は医薬品の提供にとどまりません。環境や人権をはじめとする社会課題にも誠実に向き合い、事業活動全体を通じて社会からの信頼に応えていく必要があります。現在は、患者さんへの価値提供と、地球環境や社会への責任は別々のものではなく、当社の存在意義の中で一体となってつながっています。

グローバルスペシャリティファーマへの進化には、創薬力だけでなく、社会からの信頼が不可欠です。気候変動や人権などの社会課題への取り組みは、その信頼を支える経営基盤であり、長期的な企業価値向上にもつながります。私たちは、患者さんへの価値提供、環境・社会への責任、そして株主・投資家の皆さまへの価値創出を統合的に高めることで、持続的な成長を実現していきます。

グローバルで価値を創出できる人と
組織を、次代へ。

ミッションを一人ひとりの判断と行動に根づかせ、多様な人々を導くリーダーと、質の高い意思決定を迅速に実行できる組織を育てます。

グローバルで価値を創出できる人と組織を育てるうえで、何より大切なのが、「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」という企業理念です。当社はこの企業理念への共感が広く浸透しています。しかし、抽象的な言葉として理解するだけでは十分ではありません。一人ひとりが自らの仕事や人生に引き寄せ、日々の判断と行動に結びつけることが重要です。社員自身の「マイ・ミッション・ステートメント」や各組織のミッションを考える取り組みも進めています。会社の目指す姿と、一人ひとりが仕事や人生で実現したい夢が重なったとき、挑戦する力はさらに大きくなると考えています。

私は、グローバル人財とは、単に海外で働ける人や英語に堪能な人ではないと考えています。どのような場所でも自分の考えを明確に伝え、周囲の共感を得ながら、多様な人々を同じ目的へ導ける人こそ、真のグローバルリーダーです。そうしたリーダーを増やし、組織として成果を生み出せる会社にしていかなければなりません。

グローバルで大きな企業との競争に挑む当社にとって、重要な競争力の一つがスピードです。ただし、日々の作業を速くするだけでは限界があります。飛躍的に高められるのは、判断のスピードです。質の高い判断を素早く下し、組織として実行に移す力を磨くことが、小野薬品らしい競争力につながります。

私自身、十分な準備が整った状態で社長に就任したわけではありませんでした。その経験から、次の経営を担う人財には、早い段階から必要な見識や経験を積む機会を設けることが重要だと考え、育成の仕組みを整えてきました。しかし、仕組みだけで将来のリーダーが育つわけではありません。難しい課題に向き合い、自ら判断し、その結果を引き受ける実践の積み重ねが不可欠です。次世代を担う人財が変革の現場で得た経験を、組織全体の力として継承していきます。

300年企業の次の夢を、
皆さまとともに現実へ。

研究開発力、ライセンス戦略、グローバル事業基盤をさらに磨き、特定製品への依存を越え複数の革新的医薬品をグローバルで創出し、その価値をグローバルで最大化できる企業へ。世界から「ユニークで面白い会社」と認められる未来を目指します。

企業として持続的に成長していくためには、新薬を切れ目なく生み出し、外部から有望なパイプラインを獲得し、患者さんへ届ける力を高める必要があります。特許満了を一つひとつ乗り越え、将来的には、特許満了の影響を受けにくい事業を構築することも、経営の安定性を高める選択肢になると考えています。まずは研究開発力、ライセンス戦略、そしてグローバルで製品価値を最大化する力を着実に強化していきます。

小野薬品は、300年以上前に大阪で生まれた製薬企業です。関西の一企業から、関西を代表する企業へ、そして日本を代表する企業へ。さらに世界から「ユニークで面白い会社」と認められる存在へ成長したい。それが私の抱く夢です。

夢は、現実を直視し、そこへ至るまで一歩一歩を堅実に積み重ねれば、必ず実現すると信じています。当社は長い歴史の中で幾度もの危機を乗り越えてきました。今は、危機を乗り越えるだけでなく、その経験と力を大きな成長へ変える段階です。現状にとどまるという選択肢はありません。患者さんへより多くの新薬を届け、企業価値を高め続けるために、前へ進み続けます。

ステークホルダーの皆さまは、私たちの夢を支え、ともに未来をつくってくださる大切な仲間です。新薬を待ち望んでいる患者さんの期待に応えるために、社員、株主・投資家の皆さま、研究機関やビジネスパートナーをはじめとする皆さまと力を合わせ、同じ未来を見据えて歩んでいきたいと考えています。

グローバルにおいて価値を創出し続けることは容易ではありません。それでも、難しいからこそ挑戦する価値があり、その挑戦の先にこそ、小野薬品らしい面白さがあると考えています。私たちは、患者さんに新たな治療の選択肢を届け続けることで、社会から必要とされ、株主・投資家の皆さまにも未来をともに見ていただける会社を目指します。大きな夢の実現へ向けた確かな一歩を、これからも皆さまとともに積み重ねてまいります。